大切なものは心の中に

チュジフン主演「キッチン」を中心とした作品の2次小説書庫です。

アンティーク×キッチン

アンティーク×キッチン~ソヌとドゥレ29

冷えた心に温もりが差し込み、ドゥレを抱きしめると大きく息を吐き出す。 そうして僕は、ようやく呼吸ができたような気がした。 がたっ!がたがたっ! 「お、おまえら・・・そこで何をやってるんだっ!」 静かな厨房の扉が突然開いたかと思うと、 ジニョクが…

アンティーク×キッチン~ソヌとドゥレ28

「ソヌさんっ!」「先生!」 呼び止めても振り返らないソヌの後ろ姿から、 ぴりぴりと張りつめた気持ちが伝わってきて胸が痛かった。 ドゥレは振り返り、ジニョックとスジンをにらむが、 ジニョクは何のことかわからず、キョトンとしている。 「・・・おい、…

アンティーク×キッチン~ソヌとドゥレ27(少し手直し)

スジンが店に来るようになって随分経つ。 このところ頻度が高くて、正直目障りだ。 クスクスとお上品な笑いは、確かに可愛くて店が華やぐけれど、 どこか冷たさを感じて気持ちを逆撫でられる。 彼女の姿が見えると、ソヌは決まって厨房の奥に入って出てこな…

アンティーク×キッチン~ソヌとドゥレ26

そうは言ったものの、一度できたしこりは簡単には解けてはくれない。 お互いどこか意識してしまって、ギクシャクした空気が流れ、 意思疎通を図ろうなんて、程遠く感じられた。 ドゥレが心配そうな顔でこちらを見るたびに、 「大丈夫だから・・・。」 と言っ…

アンティーク×キッチン~ソヌとドゥレ25

♬〜!! けたたましい音楽がわんわんと響き渡り、煌びやかな光と異様な熱気が身体を包む。 僕はカウンターに座ると、「マスター、いつものやつ。」と言った。 「最近、随分ご無沙汰だったじゃない。」 「まぁ・・・忙しかったんだ。」 マスターがテーブルに…

アンティーク×キッチン~ソヌとドゥレ24

スジンは一頻りジニョクと話をした後、にこやかに店を後にした。 手を振る彼女の姿が消えるまで、店の外まで出て笑顔で見送っていたジニョクは、 彼女が消えるや否や、「はぁ〜!」と、脱力したようにその場にしゃがみこんだ。 いくら自分の見合い相手だから…

アンティーク×キッチン~ソヌとドゥレ23

「ごきげんよう。」 少し世間離れした挨拶とともに、1人の女性が入ってくる。 ふわりとした白いレースのワンピース。その上から羽織ったショールは品がよく、 丁寧に編み上げられた髪は、清楚ながら高貴な雰囲気の簪で留められ、 穢れない穏やかな笑顔は、店…

アンティーク×キッチン~ソヌとドゥレ22

ドゥレは結局それから1週間休んだ。 彼の怪我の具合を考慮して、 ジニョクが翌々日に入っていた仕事をキャンセルしたせいもあるが、 翌日モレから彼が熱を出したと連絡があり、みんな心配していたのに、 それ以降、特に店の誰かに連絡することもなく、全く…

プティフール

プティフール 「小さな窯」という意味が由来の、 形も味も様々な一口サイズのケーキたちー 「ジニョク」 褐色のチョコレートのコーティングが 艶やかに誘惑するガトーオペラは、 スポンジに浸された香り付けのコニャックが、大人の魅力を漂わせているのに、 …

年忘れ劇場~ソヌのささやかな妄想・・・

キラキラと眩しい朝日が、カーテン越しにベッドに差し込み、 優しく朝だと僕らに知らせている。 だけど肌のぬくもりが心地よくて、僕らはまどろみの中、離れることを惜しむようにその感触を愉しむ。 今日のカレは、結構かわいいんだ。 それなのに・・・こん…

誕生~the reason I was born~11(最終話)

3つ並んだご飯とわかめスープに、山と積まれたぺキソルギ。 一通りの儀式を終えた後、再び僕らはそれらと格闘することになる。 ―幸せは・・・苦しいっ! はちきれんばかりのおなかを抱え、リビングに寝転ぶと、 「ドゥレ、そのまま寝たらブタになるぞ。」…

誕生~the reason I was born~10

はぁはぁ・・・。 無我夢中で帰ってきたのはいいけれど、一体どんな顔をして入って行ったらいいのかわからず、 入口の前で立ち止まってしまう。 ああ・・・。 何日ぶりの「我が家」だろう? いや・・・まだ「我が家」でいてくれているのだろうか? 外玄関の…

誕生~the reason I was born~9

ドンドン! 静かな朝、まどろみの中を漂う気持ち良い時間なのに。 突然、部屋の扉をものすごい勢いで叩かれて、僕らはまどろみから現実にいやおうなしに戻された。 「おい、朝だ!起きろ!」 扉の外からジニョクの声が聞こえて、慌てて飛び起きて時計を見る…

誕生~the reason I was born~8

「・・・。」 ―こりゃ・・・一体どういう図式なんだ? あいつらが特殊で、俺の方が大多数のはずなのに、 俺がどうして後ろめたい気持ちにならなきゃいけないんだ? ・・・多勢に無勢。 そういえば、ドゥレは養子縁組、ギボムは施設出身。 スヨンは父の暴力…

誕生~the reason I was born~7

「はい、アンティークでございます。」 気だるい昼下がり。 オープンしたばかりの店は、まだ客足も少なく、まどろんだ雰囲気に包まれている。 そんな中、突然鳴った電話に、俺は思いっきり営業的な声で出た。 「あ・・・。・・・え?・・・いえ・・・はい。…

誕生~the reason I was born~6

「オンマぁ・・・オンマのところへ帰るぅ・・・。」 「泣くな!・・・泣いても無駄さ。 俺たちは捨てられたんだ。迎えも来ない。 たとえここを逃げ出したって、もう帰るところなんてないんだ。」 「~~~~!」 「帰る」と言って、駄々をこねる幼い僕は、 …

誕生~the reason I was born~5

―まったく、誕生日がいつかも教えないなんて。 ドゥレの他人行儀なところに、俺は腹を立てていた。 5月16日・・・。 去年のその日は、俺がフランスにドゥレを迎えに行たときだ。 あまり正確には覚えていないけれど、ドゥレが帰ることを決めた後。 多分、…

誕生~the reason I was born~4

「そう言えばこの間、ジュレちゃんのトルジャンチだったんだろう?どうだったの?」 作業の手を動かしながら、なにげない会話の中、ソヌがその話を振って来る。 「うん・・・初めて見ることばかりで楽しかったよ。 神様にお祈りしたり、親しい人を呼んでご…

誕生~the reason I was born~3

はぁ・・・。 なんとなく、ため息がこぼれる。 「どうしたの?ため息なんてついて。」 「え・・・?いや、空が青いなって・・・。」 ソヌは窓辺に頬杖をついている僕の隣で、同じように頬杖をついて空を見上げた。 「うん、確かに青い。」 五月の空は、雲ひ…

誕生~the reason I was born~2

「さあ、食べて。」 朝食は、さっきまで裁断にお供えされていた料理が、テーブルいっぱいに並んでいた。 モレはというと、すっかりいつも通りの「モレ」に戻っている。 彼女は、鍋からスープを注ぐと、それを僕らに配った。 そして、彼女の前には3セットの…

誕生~the reason I was born~1

ごとっ。 トントントン・・・グツグツ・・・。 早朝の物音に目が覚めて扉を開けると、キッチンでモレが何やら真剣に格闘していた。 「?」 リビングでは、いつもは寝室で寝ているはずのジュレが、揺りかごでスヤスヤと眠っている。 テーブルには白い布が掛…

理想の条件~2

「こっちに来て。」 「はい。」 「あっちに行きたいの。」 「はい。」 「これ持って。」 「はい。」 「あ~疲れちゃった。」 「はい。」 ―こいつ、バカなんじゃないの? 何でもかんでも「はい」「はい」って。 その場の勢いに任せて店を出てきてしまった。 …

理想の条件2

「おい、スヨン、合コンに行くぞ。」 「・・・合コンですか?」 「おう。美人OLとの合コンだ。イヤなのか?」 「・・・嬉しいです、若❤」 スヨンはにっこり笑って、頬を赤らめた。 ーまったく・・・なりばっかりでかくて、中身は小学生なんだから。 ジニョ…

理想の条件~1

「ねぇ、ジニョクさん、合コンしない?」 「合コンですか?」 ケーキをサーブするジニョクが、そう声をかけられたのは、3日前。 常連のシニョンは、ジニョクが見事な身のこなしでケーキをサーブする姿をまじまじと見た後、 にっこり笑って誘った。 いきなり…

「俺だけ見ろ」って言わせたい~3

そう思って、無意識に手がドゥレの背中にまわろうとしたとき、 扉がガチャリと空く音が聞こえたと思うと、「ソヌ?」と僕を呼ぶ声が聞こえた。 「!?」 声の主は、部屋にいない僕を探して、半開きになった浴室の扉に手を掛けた。 「・・・おまえら・・・な…

「俺だけ見ろ」って言わせたい~2

ソヌの部屋はいつ来てもきれいに整頓されていた。 「その辺に座っていて。」 ソヌはそういうと、買ってきたワインをテーブルの上に置いて、戸棚からグラスを取った。 ドゥレは、ケータリングで作った料理の残りをカバンから取り出すと、テーブルに広げた。 …

「僕だけ見ろ」って言わせたい・・・~1

ジニョクと些細なことで喧嘩をした。 「ああ、もうどうしてわからないんだ。」 「うるせい。」 「彼女はただ彼氏とケンカして、寂しさを紛らわすためにジニョクを誘っているんだ。 どうしてわからないのさ。 彼氏と仲直りしたら、彼女はさっと彼氏の元に戻…

Christmas rhapsody ~3

「だから言ったじゃん。期待するなって。」 ドゥレは、俺が投げつけた鍵を軽々とキャッチすると、車のエンジンをかける。 一度噴き出した感情を抑えることなんかもうできなくて、 俺はまくしたてるように、ドゥレにそれをぶつけた。 「いつもそうなんだ!俺…

Christmas rhapsody~2

従業員にどんなに失笑を買っても、サンタの衣装は外せない。 自分でない俺になるための、必須アイテム。 自分でない俺に変身したら、俺につきまとう過去やしがらみから解放されるような気がして。 俺にとってこの2日間は、貴重な時間なんだ。 「配達に行っ…

Christmas rhapsody~1

この時期の「アンティーク」は、毎日目が回るほど忙しい。 クリスマスケーキやパーティ料理のケータリングの予約や準備が加わり、 通常業務のケーキ販売やカフェもお客さんでごった返して、誰も彼もが飛びまわっていた。 ジニョクはと言うと、この忙しいの…