ノスタルジア
ジュレを別れて、自分の気持ちを持て余しながらうちに帰った。 気持ちのいい別れだった。 なのに、このもやもやとした気持ちは一体なんなのか。 今頃、ジュレはカズンと盃をかわしているのだろうか? 庭に出ると、どこからか今日の国婚礼をレポートするテレ…
風が百日紅の花を揺らし、紅色と白い花びらが重なるようにひらひらと散る。 「いい加減、子供じみたわがままを言うのはよせ。」 シンの言葉が、チクチクと胸を刺した。 子供じみていることなど、よくわかっているさ。 だけど、シンに僕の何がわかると言うの…
「そろそろデザートの用意をしなくっちゃね。」 ドゥレはそう言って、僕に目くばせすると厨房に消えていった。 ジュレは彼が姿を消すなり、なにか考え事をするように伏せ目がちに料理を突いている。 「ワインをもう一杯、いかがですか?」 彼女のテーブルに…
ドゥレの様子が変だってこと、どうして気付かなかったんだろう。 僕は頭に来ていた。 昨日の夜、僕らは一緒に飲んでいたのに、僕はドゥレから今日のことを何も聞いてはいない。 それなのに朝起きたら「今日は休んでいい。」だなんて。 確かに昨日、僕は、「…
「ああ・・・ジュレちゃん、行ったのかしら?」 チェギョンが窓越しに空を見上げて、はぁっとため息をつく。 今日は一日こんな感じで、執務室にやってきた彼女は、 さっきからうろうろしたり、ため息をついたりして落ち着きがなくて、仕事にならない。 「そ…
電話が来たのは、昨日の夕方だった。 それは突然で・・・でも、いつかくることはわかっていた。 「明日・・・行ってもいい?」 いつもと違って、少し緊張した声が受話器の向こうから聞こえてくる。 胸がひとつ大きく拍動して、口の中から何か飛び出しそうな…
誰かの視線を感じて重い瞼を開くと、 いきなりじっと僕の顔を覗き込んでいるテソンの顔が視界に入り、 驚いて飛び起きた。 「テッ、テソン???・・って、・・・ここはどこだ?」 飛び起きた拍子に頭がガンガンして、思わず蹲る。 すると、テソンは、持っ…
建物というのは、緻密な計算の元にできている。 しかし、計算というものは、あくまでも予想に基づいたもので、 現実とちがうこともあり、その予想と現実のわずかな誤差やズレは、 様々なところに小さな歪みを作る。 小さな小さな歪み。 しかしその些細な歪…
Q. このカップルは、どっちでしょう?(笑) *一部・・・と言うか、初っ端から大人な表現が含まれます。 御嫌な方はこのままUターンをお願いします。 ********* 溢れだす激情の勢いに押されるように、乱暴にキスをする。 何度も何度も彼女の唇に自…
演技協力:シン・チェギョン(脳内変換よろしこです(笑)) 「・・・ジュレ?」 着替えに入ったっきりいつまでたっても出てこないジュレが気になって、 僕は彼女の部屋の扉をノックしてみた。 「・・・カズン?」 間を置いて、扉の向こうから彼女の声が聞…
「カズン・・・。」 彼の言葉に、私は呆然として彼を見た。 ―ずるい。 カズンはずるい。 全ての決断を私に委ねるなんて。 この状態で、今の私に一体何が言えるというのだろう? ・・・だけど、彼にそうさせたのは私。 彼の優しさに甘えて、好き勝手してきた…
ジュレがバスルームに消えてから、ずっと考えていた。 「僕らはどうしたらいいのだろう・・・」と。 それはあまりに難解で、そして今の僕には時間があまりにも少なかった。 本は開いていたけれど、1ページも1文字も進んでいない。 父上から下された上意が…
オテル・ド・クリヨン。 パリで屈指のホテル。 世界各国の要人の御用達のホテルは、フランス革命の時代からここの佇む歴史的建造物で、 100年以上も昔からパリの歴史を見守り続けているだけあって、 外も中も荘厳な作りで、全く濡れ鼠な私は入ることも躊…
その夜は眠れないまま朝を迎えた。 月と太陽がバトンタッチしたところで、考えがまとまるわけもなく、 答えを見いだせないままマリーの家を後にした。 マリーは何も言わない。 ―答えは自分で見つけろ・・・ってことか。 わかっていることは、 私の気持ち、…
彼が店を出ていくのを、ただ呆然と見送る。 彼が急に怒りだしたその意味が理解できなかった。 「なんで・・・?」 カウンターの向こう側では、事態を呑みこめないジャニスが、あたふたしている。 『ジュレ・・・一体何があったんだ?』 『何でもないわ・・…
連れてこられたところは、古いものと新しいものが混じり合った不思議な街。 新しくもあり、古くもあり、でもそのどちらでもない。 そんな曖昧さが、どこかよそ者も入り込めそうな隙を作って、 僕の泊るホテルのあるコンコルド広場あたりの伝統で固められた街…
ステージが終わり混み合うロビーで、足早に控室から出てきた彼女に声をかける。 「ジュレ。」 「!」 連絡しなかったことを怒っているかと思っていたのに、 意外にも振り向いた彼女は、僕に気がつくと慌てて駆け寄り、僕を柱の陰に隠した。 「何やっている…
結局それから、ろくに口もきかずに船を降りる。 「ねぇ、どうしたのよ。」 「・・・別に。もう時間だ。」 「え?」 「夕方にはレセプションがあるんだ。行かなくちゃ。」 「カズン・・・。」 「また連絡するよ。しばらくはパリにいるから。」 僕はそう言う…
船着場から船に乗り込み、2階のオープンデッキへ向かう。 デッキは客がまばらで、私たちと同じくらいのカップルと親子連れが距離をおいて座っていた。 私たちも、彼らと少し離れたデッキの一番後ろの席に座る。 水を切る音やエンジン音が少し賑やかだけど、…
「・・・カズン?」 「え?・・・あ、ああ。」 名前を呼ばれて我に帰ると、怪訝な顔をしたジュレが僕の顔を覗き込んでいた。 「久しぶりのデートで、ぼんやりするっていうのはどういう意味なのかしら?」 「ご、ごめん。意味なんてないよ。ただ、川面が眩し…
柔らかなジュレの掌の感触に胸がときめく。 握り返された彼女の力に、僕への想いを感じて泣きそうになった。 「どこへ行こう?」 振り返ってジュレを見ると、 「それも決めてないのに、私をデートに誘ったわけ?」 いつもの憎まれ口だって、愛おしく感じる…
華やかなパリ。 それは私にとって夢のような世界。 煌びやかな光に包まれ、色とりどりの衣装に身に纏い舞台を歩く。 人々の視線が熱くて、眩暈を起こしそう。 フランスへ渡った私はこの2年間、順調にステップを踏んで、 気がつけば押しも押されぬトップモデ…
2年前の夏― 「フランスへ行ってくる。」 「へ?」 大学のカフェテラスで、スットンキョンな声を出してカズンが私を見た。 「フランスへ留学する。もう決めたの。」 「・・・留学って・・・?僕はやっと大学に入学したばかりなのに。」 この春に入学したば…
初夏の眩しい光の中、希望に胸を膨らませて帰国した。 懐かしい風に吹かれたら、希望の扉を開くには、 今握っているものを離さなければいけないことに気づく。 今、この掌の中にある大切なもの。 暑い夏は忙しさに追われるように過ぎ去り、私はそれを理由に…