大切なものは心の中に

チュジフン主演「キッチン」を中心とした作品の2次小説書庫です。

second moon

番外編~ドゥレに食べさせたくて

「ドゥレ、ご飯食べに行こう。」 「いいけど、どこに?」 「ふふふ、いいところを見つけたの。」 「いいところ?」 「いいからいいから。」 ヘインは僕の背中を押すと、地下鉄に乗り込んだ。 「なんだか楽しそうだね。」 何やらニコニコ楽しそうな彼女を覗き…

second moon 75

泣き続けていたジュレの気持ちが落ち着いた頃、モレはジュレに声をかける。 「ジュレ、いらっしゃい。」 ジュレはおとなしくモレの手に抱かれ、気だるそうに彼女の胸に顔を押しつけた。 モレはジュレの背中をポンポンと叩くと、私たちの方を見た。 「帰るわ…

second moon 74

「ジュレちゃん?」 ソラとハヌルが、あたりをキョロキョロしている様子に気がついて声をかける。 「どうしたの?」 ソラとハヌルは、ちょっと困ったような顔をして、 「あのね・・・ジュレちゃんがいないの。」と訴えた。 「え?」 「僕たちかくれんぼをし…

second moon74

ー黄色い絨毯。 話には聞いていたけれど、実際見ると、その美しさに心を打たれる。 なによりも、押し寄せるような彼の心に圧倒される。 その心に包まれるように、咲き乱れる花たちと対峙するヘインの後ろ姿を見つめながら、 僕は説明しようがない気持ちを持…

second moon73

「ドゥレパ!」 ぼんやりと土手に座っていたドゥレに、ジュレが飛び付く。 「わっ!ジュレ!」 楽しそうな声に振り返ると、ジュレとドゥレがじゃれている。 子供たちに慕われていたあの人を、ジュレと遊ぶドゥレに重ねて、私は目を細めた。 「こんなところ…

second moon 72

「ごめんね。遅くなって。」 車から降りてドゥレが私を出迎える。 「ううん。」 私は首を横に振って、笑顔で答えた。 ジュレの姿を探して車の中に視線を送る。 「!」 驚いて、思わずドゥレの顔を見る。 ドゥレは頭を掻き掻き、申し訳なさそうに笑うと、 「…

second moon71

「いや!」 「ジュレ!わがまま言わないの!」 寒く厳しい冬も終わり、温かい風が吹き抜ける。 草花が芽吹き、丸裸になっていた木々も、小さな芽をつける。 訊き慣れたいつものやり取りも、なんだか華やいだ雰囲気を感じるのは、 南から吹いてくる命の息吹…

second moon 70

情熱を放射した後の気だるい身体を起こし、乾いた服を身に纏う。 少し下火になった囲炉裏の火を動かして薪を入れると、小さな火花が立ち上がり、 大きくなった炎が、僕の横で眠る愛しい人の安らかな顔を照らした。 その寝顔を見つめるだけで愛おしさが胸に…

second moon69

「なぜ?」 「・・・え?」 「なぜあんなことを?」 「言っただろう?彼の気持ちが分かるからだよ。」 「でも・・・。」 「偽善だと思うかい?他の男に心を傾けたあなたを、その男ごと受け入れるなんて。 くくく・・・僕も自分がバカだなと思う。 だけど僕…

second moon68

ここに来たのは、ちゃんとヘインに自分の気持ちと向き合って欲しかったから。 わかっているくせに、わざと見ないように避けている彼女が、僕は嫌だった。 強引だったのは分かっている。 だけどこうでもしなければ、ヘインは現実から目を背けたままだっただ…

second moon 67

振り続ける雪は、どんどんひどくなっていく。 ドゥレは空を見上げてその雪を掌に載せると、首を横に振って私に近づいた。 「ヘイン、雪がひどくなってきた。もう帰ろう。」 戸惑う私に、手を差し伸べるドゥレ。 私はその手を振り払う。 私とドゥレの温度差…

second moon 66

私の心にするっと入ってきて、何の違和感もなく私の隣にいるドゥレ。 彼の言葉は、私の心を打ちならし、いつも温かい気持ちにさせてくれる。 どうして彼は、私が欲しい言葉をいつもくれるのだろう? 本当に不思議な力を持っているのは、ドゥレの方じゃない…

second moon65

彼を失った悲しみによって絶望という闇に堕ちていった私の心を、彼の愛が救ってくれた。 それなのに。 私は彼の存在を心の奥底に押し込んで忘れようとした。 自分が楽になりたくて。 幸せになりたくて。 農園に足を向けられなかったのは、 ここに来たら、あ…

second moon64

私が植えた水仙はひとつだけだったはず・・・。 そして、植えた場所には、何も埋まっていなかったはずなのに。 私は思わずスゴンの顔を見る。 「あなたがソラとここに来た日からしばらくして、 突然スンハのやつがふらりとやってきたんですよ。 忙しいはず…

second moon 63

年が明け、春の足音が聞こえる頃、突然電話が来た。 「もしもし?ファン・スゴンです。ヘインさん、お久しぶりです。」 突然の電話に、言葉を詰まらせていると、 「あなたにぜひ見て欲しいものがあるんです。ご足労ですが、こちらまで来てもらえませんか?…

second moon 62

「ヘイン?」 ハウスの中にへインの姿がないことに気がつき、あわてて辺りを見回すと、 フラフラと畔道を歩く彼女を見つけた。 その様子が少しおかしくて、僕はスゴンに摘んだばかりのトマトの箱を預けてヘインを追いかける。 「どうしたの?」 声をかけて…

second moon 61

スゴンとともに農場に向かおうとするドゥレの後を私は追いかける。 「私も行くわ。」 「無理してつきあわなくてもいいのに。チビちゃん達が待っているんじゃないの?」 「いいの、後で逢いに行くから。 今は、ドゥレに着いていく方が大事なの。」 少し強い…

second moon60

突然一人で帰ってしまったドゥレの背中を、私は呆然と見つめていた。 「いいの?ヘインさん。彼を一人で帰らせて・・・。」 私の横で、スンヒが心配そうに訊くけれど、 私の身体は石のように固まって、彼を追いかけることができなかった。 心の中に、温かい…

second moon 59

トントン。 「・・・何度も来てすみません。」 その翌日、フリージアの香りとともに、再びドゥレがやってきた。 「何がいいか迷ったんだけど・・・やっぱりこの花しか思いつかなくて。」 そう言って、病棟から借りた花瓶に花を生けると、昨日の花の隣にそれ…

second moon 58

私とスンヒがあの時のことを思い出しながら、あの人のことを語り合う間、 ドゥレはその横で、黙ってそれを聞いていた。 彼は何も言わなかったので、 私はドゥレがこうしてあの人の話を聞かせることをどう思っているのか気になっていた。 「私ね、あの手紙は…

second moon57

「今日は私に用事があってきたんでしょう?私に何を聞きたいの?」 スンヒの何もかも見透かすような言葉に、胸がドキンと高鳴った。 「どうして・・・?」 「言ったでしょう?私は目が見えない代わりに、人の心が見えるって。」 スンヒはそう言って、にっこ…

second moon56

一度溢れた想いはとめどもなく流れだして、私は彼の影を追い求めた。 彼があの時何を考え、何を想っていたのか。 それを知りたくて、彼の残像を探す。 彼が残した2通の手紙に、彼のどんな想いが隠れているのか知りたくて、 私はチャ事務長に無理を言って、…

second moon55(改訂しました)

今日もまたとてもよい天気で、 待ち合わせの場所に行くと、へインが笑って手を振っていた。 だから僕も、笑って手を振る。 「おまたせ。今日はどこへ行くことにしたの?」 「今日は人に会いに行きたいの。付き合ってくれる?」 意外な答えに、面食らう。 「…

second moon 54

―闇の中で震える僕の手を引いてくれたあなた。 だけど、本当はあなたこそが真っ暗な闇の中を彷徨い歩いていたんだね。 だから、今度は僕があなたを探しに行くよ。 あの時のことを思い出すたびに、私の心は深く落ち込んで、闇に引き込まれていくのがわかる。…

second moon 53

彼の死後、事務所のでデスクから3通の手紙が見つかった。 1通は、義姉オ・スンヒ宛。 2通目は、義兄ファン・スゴン宛。 そして3通目はチャ事務長宛だった。 私は手渡された白い封筒を開けると、手紙を読み始めた。 ** ―チャ事務長様 この手紙を読んで…

second moon52

『・・・夕べ、あなたと3年前の事件のことを、彼に訊かれたの。』 「え?」 オンマの意外な言葉に、食事の手を休める。 『私、直接説明することができなくて・・・ 彼に3年前の事件が書いてある新聞の切り抜きを渡したの。 彼はそれを見て更に尋ねてきた…

second moon51

朝の陽ざしが差し込む。 その光に起こされるように私は目を覚ました。 あの日の夢を見るのは、久しぶりだった。 夢なのに、唇に感じた冷たさがまだ残っているような気がして、そっと唇を触れる。 悲しさに包まれて、心が凍えてしまいそうだ。 頬に伝った涙…

second moon 50

家に帰ってポケットの中の切り抜きを取り出す。 〈 ・・・洞の自動車解体工場の敷地内で、オ・スンハ弁護士(29歳)とソウル市警捜査課のカン・オス刑事(30歳)が遺体で発見された。カン・オス刑事は上腹部に銃創、オ・スンハ弁護士は右腹部に刃物によ…

second moon 49

それからどうなったかと言うと、私のビジョンをもとに、スンハの事務所付近を捜査したところ、 私が言ったその場所から、凶器の刃物がみつかった。 そして一連の事件の中で彼に恨みを持つ人物を探し出し、間もなく犯人も捕まった。 犯人はオスの友達、デシ…

second moon 48

地下の霊安室は、ひんやりとして、怖いほどの静寂に包まれていた。 その部屋の真ん中に、彼はひとり横たわっていた。 部屋に入るなり、無機質な空気に気持ちが押しつぶされそうになった。 パンチーム長が白い布を外すと、まるで眠っているような安らかな顔…