大切なものは心の中に

チュジフン主演「キッチン」を中心とした作品の2次小説書庫です。

奇跡の糸

奇跡の糸64

「ドゥレ、戻っておいでよ。」 突然のモレの言葉に顔を上げると、 モレが泣いているような、笑っているような顔をして僕を見つめていた。 「「モレ・・・。」」 サンインも思わず立ち上がってモレを見る。 でも、モレは立ち上がると僕の傍に来て肩に手を掛…

奇跡の糸63

ジャジャ~ン! チェギョンの仰々しい声とともに、シンとチェギョンが大きな台車を引いて部屋に入ってきた。 「えーっと、今日はね、ドゥレさんが教えてくれたレシピのお披露目会で~す。 ドゥレさんの教えてくれた料理で、私たち本当に幸せなクリスマスを…

奇跡の糸62

東宮につくと、聞き慣れた可愛い笑い声が聞こえた。 「え・・・?」 パビリオンに入ると、「あ、ドゥレパ~!」という叫び声とともに、 クマのぬいぐるみを抱いたジュレが僕に飛び込んできた。 「ジュレ・・・?なんで?」 ジュレを抱き上げて、前を向くと…

奇跡の糸61

「もう!なんだっていうんだよ。二人してさ。」 後部座席でふてくされていると、バックミラー越しにシンがそれを覗きながら笑う。 いつものドゥレと違って、少し幼く見えるのは、彼らに甘えられているからなのだろう。 そんな様子に、少しばかり嫉妬を感じ…

奇跡の糸60

「よくここがわかったね。」 あくびをしながらドゥレが階段を下りてくる。 「あたりまえだ。宮の情報網をバカにするな。」 「・・・いいの?こんなことに使っちゃってさぁ。」 外の空気が冷たくて、ドゥレはぶるっと震えると、肩をすくめて両手をポケットに…

奇跡の糸59

「・・・だから!何で毎日俺のところに泊まるんだよ!」 ギボムがドゥレの布団をはいで叫んだ。 ドゥレは寒そうに、ギボムから布団を奪い返すと、 それを身体に巻いて布団に丸まりながら、ギボムに反論する。 「何で?いいじゃん。どうせ一人なんだしさぁ。…

奇跡の糸58

もともと不安定な形だった。 でも形にとらわれることを嫌い、自分たちがなりたい形を強引に作った。 だけど、心のバランスを取るのはとても難しくて、フラフラ揺れては倒れないようにしようと、 誰かの痛みと引き換えに体制を維持してきた。 今はジュレがそ…

奇跡の糸57

「そうですね。ドゥレだけが傷つくのがわかっているのに、離れない私たちはずるい ・・・いえ、ずるいのは私。 もう既に選択しているくせに、ドゥレの手を離すことができない私です。」 「そんな、ずるいなんて・・・でも、どちらも手放せないなんて・・・…

奇跡の糸56

単刀直入に聞かれて、どこから話したりいのか迷ってしまう。 すると、ジュレが前にあげたクマを持って現れた。 「オンニ。くまちゃん。」 大切そうに抱きしめて、私に見せようと側に寄ってくる。 そのいじらしい仕草に、緊張した心も一気に緩んでしまう。 …

奇跡の糸55

「ここでございます。」 チェ尚宮の運転で、到着した場所は、ソウルの郊外に立つ一軒家。 車では家の前まで入ることができなくて、私は途中で降りると、細い坂道を上がって行った。 突きあたりに階段が見え、それを上ると広い芝生の庭が広がり、 冬だと言う…

奇跡の糸54

抵抗する間もなく、あられもない姿にさせられて、呆然と立ち尽くす。 ―一体何があったの? ふいに鏡に映った自分の姿が目の中に飛び込んできて、状況をようやく把握して・・・。 「やっ・・・!」 顔を真っ赤にしてその場にしゃがみこんだ。 私の様子に、シ…

奇跡の糸53

フランス使節団が帰国して、ようやく肩の荷が下りた。 はじめてあんな外国からやってきたたくさんの方々におもてなししたけれど、 よろこんでもらえたのかしら? とりあえず、今までみたいにドジは踏まなかったと思うんだけど・・・。 湯上りにさっと留め上…

奇跡の糸52

「何かやるとは思っていたけれど、ずいぶん大胆な行動に出たんだね。驚いたよ。」 フランス使節団との会談が終わったあと、気が抜けて椅子に座りこんでしまった僕の前に、 ドゥレは笑いながら紅茶を置く。 仄かに薫るブランディに緊張がほどけていく。 僕は…

奇跡の糸51

年明けすぐのフランス使節団の招聘という大きな公務の前に、 幸せなクリスマスも新年も、ゆっくりと味わうこともできないまま慌しく過ぎていく。 シンは最後の調整に余念がない。 チェギョンも接待は一人でこなさなければならないので、 フランス語からマナ…

奇跡の糸50

気が付いたら、ぼくらは太平館に2人きりで残されていた。 いや、もしかしたらどこかで隠れて見ていたのかもしれないけれど・・・。 さりげないようで、見え見えの気遣いに、2人は吹きだしてしまう。 「いくら僕だって、ここでどうにかしようなんて思って…

奇跡の糸49

シンくんの話を呆然と聞く。 私が寝込んでいた時に、そんなことがあったなんて。 シンはシンで、そんな風に考えていたなんて、私は全然気がつかなかった。 「・・・そんなわけで、このケーキは僕が確かに作ったが、僕とドゥレの2人で作ったケーキだ。 僕と…

奇跡の糸48

途中何度も失敗しては、その度に作りなおして・・・。 一体どれだけの時間がたったのだろうか? 出来上がった時には、日付の境をとうに過ぎていた。 「できた・・・・。」 出来上がりとともに口に出た言葉は、嬉しさとか達成感よりも、安堵の声だった。 「…

奇跡の糸47

時間を少しさかのぼる。 コン内官に背中を押されるようにして東宮を後にした僕は、あるところに向かっていた。 江南のマンション。 そう、「フランス講座」を開いたあの部屋だ。 何もなければ、今日あの部屋で最後のフランス講座が開かれるはずだった。 ・…

奇跡の糸46

チェギョンの出した答えは、優しくて大きな愛だった。 彼女はいつだって、太陽のように明るくて。 そして、とても大きい。 こんなに小さな身体なのに、なんて大きな心なんだろう。 チェギョンの想いを受け止めて、僕の心は歓びに震えるとともに、 その想い…

奇跡の糸45

トントンー 扉をノックする音にビクリとして、僕は身体を硬直させて、扉を見つめる。 ガチャー扉が開く。 「メリークリスマス!」 突然、すっとんきょんな声とともに、 白いミニドレスを身に纏ったチェギョンが配膳カートを引いて部屋に入ってきた。 「!?…

奇跡の糸44

12月24日― 外の世界では、イルミネーションが街を煌びやかに輝かせる。 誰もが心を躍らせて、今にも降り出しそうな寒空の中、 大切な人を想って、胸を温め合っている。 僕たちにとっても、本当ならば、今日はそんな日になるはずだった。 だけど、今の僕…

奇跡の糸43

眠れない夜が明けて、朝日が部屋に差し込む。 僕は目を細めてその光を見つめていた。 一晩中、これからどうするべきか考えていた。 答えは・・・まだ見つからない。 いや、見つからなかったわけではないけれど・・・。 しばらくすると、コン内官がいつのも…

奇跡の糸42

「・・・。」 チェギョンとドゥレの会話に、僕はまた立ち合ってしまった。 あの後、僕はひとり太平館を出て、フラフラと東宮に帰ってきた。 チェギョンと顔を合わせることなんてできないと思いながら、それでも彼女が心配で仕方がなかった。 自分で傷つけて…

奇跡の糸41

「妃宮様!妃宮様!」 チョン女官とパン女官が呼ぶ声を振り切って、逃げるように太平館を離れる。 はあ・・・はあ・・・。 もうこれ以上走れなくって、私は立ち止まるとその場に泣き崩れた。 ―シンくん・・・。 シンくん、そんな風に私の事を思っていたなん…

奇跡の糸40

ドゥレが部屋から追い出された後、 彼が姿を消した扉に向かって鼻で嗤うと、衣服の乱れをさっと直す。 部屋の空気は凍りついていた。 自分の思い通りの結果になったのに、晴れやかな気分になるどころか、 後味の悪さと、虚しさだけが心に残る。 「・・・恐…

奇跡の糸39

「チェギョン!」 部屋を飛び出す彼女に声をかけるけれど、彼女はそれに振り向くこともせずに、姿を消した。 「なんで・・・どうしてこんなことを・・・。」 怒りに心が震える。 「・・・そう言うわけだ。 あいつは俺の妻だ。いくらお前が愛したところで、お…

奇跡の糸38

久しぶりよく眠れたような気がした。 相変わらず、広いベッドには私ひとりだったけれど。 でもいいの。 今日から変わるんだから。 クリスマスまであと10日。 シンくんと一日でも早く仲直りができるように、がんばるんだ。 朝食の用意ができたと呼ばれてダ…

奇跡の糸37

結局、部屋の外で待機していたチェ尚宮につかまって、 彼女と一緒に、講座を開いているあの部屋へ向かう。 彼女もここのところの私の態度に、かなり心配をしていたらしかった。 「ドゥレさんに逢いに行く。」 一言言うと、それで何かを察したのか、 「お供…

奇跡の糸36

ヘミョンの部屋を出て、ひとり廊下を歩いていると、 「シンくん・・・待ってよ。」 チェギョンの声に振り返ると、彼女はビクッとして足を止める。 ため息をついて、再び歩き出そうとすると、 「シンくん・・・。」 またチェギョンが僕を呼ぶ。 「・・・おま…

奇跡の糸35

とにかく何があったのか、理解できなかった。 ぬくもりを求めて背中を抱きしめたことまでは覚えている。 突然、狂ったようにシンくんに襲われて、暴漢に襲われたように私は身体を弄ばれた。 話をしようと声をあげても、シンくんに抑えつけられて何も言えな…