大切なものは心の中に

チュジフン主演「キッチン」を中心とした作品の2次小説書庫です。

キッチン本編

幸せのカタチ17

懐かしい空気が僕を包む。 サンインは、最初に来た時と同じように、 「おまえの部屋だ。」と言って、前に使っていた部屋の扉を開いた。 部屋の中は、出て行った時のままの姿で、僕を出迎えてくれた。 僕はサンインを振りかえると、「お前の部屋なんだから、…

幸せのカタチ16

再び仁川空港に降り立つ。 この間ここを飛び立つときは、もう二度とこの地を踏めないと思っていた。 それが、今サンインと二人で立っている。 僕は到着ロビーの自動ドアを開けて外に出ると、深く息を吸いこんだ。 「韓国」の匂いがした。 「マリーついたよ。…

幸せのカタチ15

サンインがここにいられるのは後1週間。 一緒に帰るのなら、かなり急いで準備をしなくてはならなかった。 あんまりバタバタするのも嫌だから、僕は後から帰ろうかとも考えたけれど、 「一緒に帰りなさい。」 と、マリーが頑なにそれに反対して、 「間にあわ…

幸せのカタチ14

サンインと歓びを分かち合い、ひとしきりじゃれ合った後、 僕らは部屋を出ると、キッチンにはいつものようにマリーが立っていて、 僕らが出てくるのを待っていた。 「おはよう。ドゥレ、やけどの具合はどう?」 いつもと変わらない口調で、僕に様子を聞くマ…

幸せのカタチ13

サンインの言葉は、魔法のようだった。 今まで凝り固まっていた心が、まるでチョコレートのように溶けていく・・・。 昨日の夜、熱にうなされながら聞いたマリーの言葉で、 僕は自分の気持ちに素直になろうと決めた。 マリーやモレ、ジュレ、サンインの事を…

幸せのカタチ12

ドゥレの寝息を聞きながら、いつの間にか俺もベッドに顔を伏せて眠ってしまったようだった。 月明かりは、いつの間にか朝日に変わり、 部屋に温かい光を注ぎ込んでいた。 「ヒョン、目が覚めた?」 ドゥレの声に顔を起こすと、彼はまだ横たわったまま、俺を…

幸せのカタチ11

「あなたが幸せになること。それが一番幸せに感じることよ。」 と、ドゥレに語りかけるマリーに心を打たれる。 眠るドゥレの髪を優しくなでるマリーに、俺はつい口を滑らせる。 「どうして、あなたはドゥレをそんなに深く愛せるのですか?血のつながりもな…

幸せのカタチ10

夕陽の中をとぼとぼと家路を歩く。 両手はズキズキ痛むし、頭の中はぐちゃぐちゃで、どうにかなりそうだ。 サンインから逃げるように、店に行った罰があたったのだろうか? ―考え事をして、うわの空で料理をしても、うまい料理ができるわけないだろう。 今…

幸せのカタチ9

「部屋を・・・ドゥレの部屋を見せてもらってもいいですか?」 俺の申し出に、マリーはにっこり笑うと、「どうぞ。カギはかかっていませんから。」と言った。 おそるおそるドゥレの部屋の扉を開ける。 机とベッド、そして本棚だけ置かれた簡素な部屋。 でも…

幸せのカタチ8

翌朝目を覚ますと、ドゥレの姿はもうなかった。 俺が起きてくるのをキッチンで待っていたマリーが、 「ドゥレは今日は早く職場に行くと言って、もう家を出てしまったの。」 と、申し訳なさそうに俺に伝えた。 ドゥレが俺から逃げたのは明白で、俺は大きくた…

幸せのカタチ7

バタン。 大きな音をた立てて、扉を閉めた後、扉に寄りかかり深いため息をつく。 どうしてそうなるんだ? 僕は思わずサンインを置いて逃げてきてしまった。 頭の中が混乱してどうにかなりそうだ。 サンインが僕を迎えに来た。 それはわかった。 彼は僕が必…

幸せのカタチ6

「おまえはすごいな。ソヌとジュニョクの事を気づいていたんだな。」 「え?」 「ソヌとジュニョクは結婚したぞ。俺は、結婚すると報告を受けるまで全然気がつかなかったよ。」 「わ~ぉ。ヌナとジュニョクさんは結婚したんだ。そいつはすごいや。」 さっき…

幸せのカタチ5

「モレは元気にしている?あれからどうしたの?」 マリーが置いて言った話題をつなぐように、あれだけ避けていたことをドゥレが訊いてきて、 俺はどうこたえるべきか躊躇した。 だけど、事実は事実だ。 ありのままに答えるしかない。 「俺たちはあれから一…

幸せのカタチ4

突然僕らの前に「爆弾」を置き去りにするなんて、 逃げている僕に対して、マリーは本当に容赦ないんだ。 「はあ。」 僕は大きなため息をひとつつくと、覚悟を決めてコニャックを掴んだ。 「ヒョン、こっちでやろう。」 コニャックの壜を振って、サンインを…

幸せのカタチ3

「いらっしゃい。よくいらっしゃいました。」 家に着くと、玄関でドゥレの養母のマリーさんが僕を出迎えてくれた。 「本日は、お招きありがとうございます。ご厚意に感謝します・・・。」 俺が彼女とひととおり挨拶を交わしている間に、ドゥレは客室に俺の…

幸せのカタチ2

考えてみたら、俺はドゥレのことを何にも知らないような気がする。 俺の知っているのは、パリで意気投合して一緒に過ごした時間と、 ソウルに呼んで一緒に暮らしたあの1カ月半だけだ。 その前の事は、ドゥレから全く聞いてなかったし、聞こうとも思ってい…

幸せのカタチ1

「・・・お友達はどうしているの?」 朝食を食べている時、突然マリーが訊ねてくるので、 僕はスープを口に運ぶのを途中でやめて、彼女を見る。 「え?」 「ほら、韓国からみえた・・・ハン・・さん?昨日会ったんでしょう?」 「サンイン?・・・うん、で…

薔薇の心12

「おい、休んでもよかったんだぞ。彼のことをずっと待っていたんだろう?」 ジャニスが厨房で、ドゥレに声をかける。 「・・いいんだ。急に休んだら、ジャニスだって困るだろう?今日は予約も3つも入っているし。」 「大丈夫さ。今までだって一人でやってき…

ポドウィナム(葡萄の木)14

『ジャニス、ちょっと借りるよ。』 店に入ると、ドゥレは俺を椅子に座らせて、厨房に入って行った。 店はちょうど休憩中で、さっきのウェイトレスとシェフが遅めの昼食をとっていた。 『ああ・・・。』 突然店に客を連れて入ってきて、厨房で何かを作り始め…

ポドゥイナム(葡萄の木)13

*二ヶ国語での展開につき、『』はフランス語、「」はハングル語になります。 ドゥレが働いていると言う『ジャニスの店』についた時は、もうお昼を大きく廻っていた。 店の扉を開くと、客もほとんど帰ってしまっていて、 『すみません、ランチの時間はもう終…

ポドゥイナム(葡萄の木)12

*二ヶ国語での展開につき、『』はフランス語、「」はハングル語になります。 春のパリは、あちらこちらに花が咲き乱れ、街並みは色鮮やかでとても美しい。 セーヌ川も、緑にあふれ、命が輝いている。 俺は、パリに着くと、まっすぐにドゥレの住所のある街に…

ポドウィナム(葡萄の木)11

「全く、あんたたちはうまくいっているんだか、いっていないんだかわからないわ。」 サンインがフランスへ旅立った後、泊まりに来てくれたソヌが愚痴をこぼす。 「私たちは前も今も、変わりないよ。」 「それならどうして今更ドゥレを迎えになんて行くのよ…

ポドウィナム(葡萄の木)10

赤ん坊と言うのは不思議な生き物だ。 毎日・・・いや、見るたびに成長しているし、顔も変わる。 骨格も筋肉もまだぐにゃぐにゃのくせに、時々ギョッとするような力を出す。 本能のままに飲んで、眠って、排せつする。 そして欲求を満たすためによく泣いた。…

ポドウィナム(葡萄の木)9

そうして、俺たちはもう一度婚姻届を出した。 祝いなんてするつもりはなかったけれど、ソヌとジュニョクが、 「そう言うことは小さくてもちゃんとやらなきゃ。」 と言ってきかないので、ジュニョク一家と5人でささやかながら晩さん会も開いた。 モレは結婚…

ポドウィナム(葡萄の木)8

時は慌ただしく過ぎていき、 とうとうソヌとジュニョクの結婚式の日。 心配していた天気にも恵まれて、3月にしては、ぽかぽかとした春らしい日になった。 砂浜にはソヌの写した作品がバージンロードを作るように飾られている。 作品の中に、モレのウェディ…

ポドウィナム(葡萄の木)7

ソルラルの休みの後、俺はジュニョクとソヌを呼んで、結婚式の打ち合わせをする。 「場所と日にちは決めたのか?」 二人にお茶を振舞いながら、俺は口火を切る。 「ああ。3月の一番最後の日曜日に決めた。 やっぱり金融関係は、日曜日でないと休みが取れな…

ポドウィナム(葡萄の木)6

新しいコーヒーを手にして、俺はもう一度手帳に戻る。 俺はイスに深く座ると、またペラペラとページをめくっていった。 「!」 《ヌナとジュニョクさんの結婚を祝う宴》 そのタイトルに俺は目を疑った。 -イェリムが、ヌナを慕っている。ママになってくれれ…

ポドウィナム(葡萄の木)5

あまりの驚きに、俺はしばらくその場に立ち尽くしていた。 この黄色い手帳は、ドゥレがいつも持ち歩いていたものだ。 「何でいつもそんな手帳を持ち歩いているんだ?」 「アイディアは思いついた時に書き留めておかないとね♪」 そう言って、何かにつけては手…

ポドウィナム(葡萄の木)4

その包みが来たのは、寒い日だった。 ソウルの冬は寒いけれど、その日は格別だった。 ソルラルの連休に入って、街はひっそりとしていた。 どの家庭もみんな家族そろって、我が家でソルナルを祝う。 今年はバレンタインデーも重なって、 恋人たちは家族と恋人…

薔薇の心12

「ママンのこと好き?」 「もちろん!世界で一番大好きだよ。」 「どうして?」 「ママンは優しいし、僕の大好きなプリンをいつも作ってくれるよ。」 「おいしいの?」 「うん!世界一だよ!」 不安で涙がこぼれそうだったアニーが笑顔になった。 僕はその笑…