天下無敵少女
あんにょんです。 「天下無敵少女」がはじまったのは、2010年の9月。 途中休止はあったものの、1年2カ月かかってやっとのゴールです。 A4用紙にして422枚! こんな長編になろうとは、誰が予想しただろう・・・。 っていうか、ふと思いついた話を…
「ジュレ!」 ほんわかした雰囲気を打ち破るように、病室にカズンが飛び込んできた。 「どうしたの?」 「どうしたのって・・・突然東宮を飛び出して行ったって言うから・・・ 何があったのかと思って、探していたんだよ。」 私が不思議そうに覗き込むと、…
気持ちを切り替えて、もう一口紅茶を飲む。 甘い香りの後から仄かな苦みを感じて、なんだか急に、嫌な予感がした。 ―マリー・・・いなくなっちゃったりしないよね? 突然夢にあらわれて、私の背中を押してくれたマリー。 それは虫の知らせのような気がして…
真っ白な世界にいた。 とても静かで、穏かな世界。 眩しいような、眠たいような・・・瞼がうまく開かない。 ―夢だ・・・これはきっと夢の中。 とろけそうな余韻を引きずりながら、気だるい身体を起こして辺りを見回すと、 少し遠くに、ぼんやりと人影が見えた…
難しいとは思いますが・・・ 脳内変換をよろしくお願いします(爆) 気だるさに負けて、東宮のソファにことりと横たわる。 心地良い疲労感が身体を纏って、私はぼんやりと部屋を眺めていた。 書面の大きな本棚には、何やら小難しい本がたくさん並んでいる。 ―あ…
ふたりはあの後どうなったのだろう・・・? 太医院の建物を出ると、もうすぐ日の出なのか、空が白み始めていた。 どこからか小鳥のさえずりが聞こえてくる。 ドゥレの夢を、最後まで聞きたかったけれど・・・。 悔しいけれど、私たちは邪魔者だもの・・・や…
ドゥレは僕の顔をじっと見て、寂しそうな笑顔を浮かべて俯いた。 「・・・話したいと思っても、話せないこともあるよ。 でも、それはしかたがないことなんだ。 ・・・彼女が・・・ヘインが僕を許さないのは、当然なんだから。」 この病室になぜ彼女がいない…
抱き合うドゥレとジュレを、僕とサンインは黙って見つめていた。 自分以外の男を、娘に「おとうさん」と呼ばれる気持ちとは、一体どんなものだろう。 でも、彼らの曖昧な関係は、どんな関係よりも強いことも、僕は理解していた。 誰もが優しい。彼らは優し…
「ドゥレ!?」 「ドゥレパ!」 サンインとジュレの様子にドゥレは苦笑いすると、ふたりを宥めるように、 「まあ・・・サンインも、ジュレも・・・シンも聞いてよ。」と言った。 「ジュレのショーを見に行ったときに思ったんだ。 どんなことをしても切ること…
「サンイン・・・ヒョン・・・!」 ドゥレは思わず上体を起こそうとして、痛みに顔を歪ませた。 「お・・・おい・・・。」 僕は慌てて崩れそうなドゥレの身体を支えて、どうにか上体を起こしてやった。 ジュレは、驚いた形相で、サンインを見つめたまま、呆…
「何となくそうじゃないかって思っていた。 でも、お前はカズンのことが気に入らなかったんじゃないのか?・・・あの事件のことで・・・。 だからふたりが付き合うと言った時、僕はおまえが反対すると思っていた。 しかし、実際は違っていた。おまえはいつ…
「ドゥレ・・・。カズンを助けてくれてありがとう。」 僕はドゥレの顔を覗き込むようにして、深々と頭を下げた。 彼からジュレを託されていたのに、僕は守るどころかあえて危険な目に逢わせ、 更に我が子カズンの命までも危険に陥れてしまった。 この絶体絶…
心臓が大きく波打ち、一瞬喉に物を詰まらせたような苦しさを感じて、 苦しさを紛らわすように息を大きく吸って、深くそれを吐いた。 急に頭が覚醒して、ゆっくりと瞼を開けると、 それまで感じなかった痛みが身体中を襲って、僕は低くうめき声を漏らした。 …
気が付いたら、真っ暗な闇の中に独りで立っていた。 ここにはなにもない。 ただ、遠くで、水の流れる音が聞こえるだけだった。 ―ここは・・・? 僕は死んでしまったのかな? 銃声の音と、ジュレとカズンを押し倒したことは覚えている。 後は、たとえようの…
一台の黒い車が家の前に止まった。 私は、ちょうど庭のハーブに水をやっているところだった。 ―誰? ドキン。 なんだかとても嫌な予感がする。 中から黒いスーツを着た男性が、門をくぐって入ってくると、私の姿を見て駆け寄った。 「ソ・ヘインさんですね…
パンッ! 乾いた音と共に飛び込んできたのは、ドゥレだった。 それからは、全てがスローモーションのようだった。 私たち二人はドゥレに倒されて地面に転がり、 ドゥレはカズンに覆い被さるように崩れ落ちて動かなくなった。 そして、彼の背中から血が噴き…
ビリビリと張りつめた空気。 「待ち人」を誘導していたとはいえ、実際に現れると、 身体中の毛が逆立っていると思うほどの緊張感に包まれる。 喉が渇いてひりひりとする。 お互いに睨みあい、沈黙が続いた後、ヒョンジュンが威圧的な声でその緊迫した空気を…
「何が言いたいの?」 ヒジュの含み笑いに、後ろで黙っていたジュレが僕の前に身体を乗り出し、ヒジュをにらむ。 すると、ヒジュはにやりと笑って、 「ドゥレ氏・・・パク・ドゥレ氏はお元気かしら?」と訊いた。 「え?」 ジュレは突然ドゥレのことを持ち…
萩の茶会当日――― 翊衛士長のカン・ヒョンジュンらに護衛されて、ジュレが東宮に姿を現した。 「おはよう。」 「・・・おはよう。」 オフホワイトの清楚なワンピースにきれいなオレンジ色のショールを肩にかけた姿で、 小さく手を振るジュレは、 心なしか表…
漆黒の闇の中に浮かぶ三日月は、頼りなさげに弱い光を放つ。 「まるで、私のようね・・・。」 真っ暗な闇の中で進む道を見失って、あの人が探しに来るのをただ、ひたすら待っているしかない私。 不安でたまらないのに、動いてしまったらあの人と逢えなくな…
「萩の茶会にジュレを?」 萩の茶会――― 宮家主催の秋の茶会。 王族会との親睦を兼ねた小さな茶会だが、慶会楼で行われるれっきとした公式行事だ。 ここに、ジュレを呼ぶことの意味は、僕にとってとても大きい。 「では、ジュレを正式に王族会に紹介するので…
もう少し・・・。もう少しで確信が持てるのに・・・。 私は自分の部屋に籠り、調査完了の電話を静かに待っていた。 チリチリとした痛みが心にずっと巣食っていて、常に渇きを覚えていた。 心の渇きが水を求めても、飲んで癒えることはない。 それから解放さ…
―一体どういうことなのだ? 自分の執務室に戻ったソン氏は、急く気持ちを押さえながら、カン・ホジンの携帯の番号を押した。 「・・・もしもし。」 受話器の向こうから、ホジンのひときわ低い声が聞こえた。 ソン氏は、その声を聞いて、いきなりの剣幕で彼…
「よろしい。では・・・。」 僕の気持ちも意見も全く介されないまま、話はどんどん進んで行った。 愛する人を囮にしなくてはいけない僕の立場は、いったいどうなるんだ? すっかり蚊帳の外に追いやられて、僕はふてくされていた。 「あら、リスクが高い方が…
「母上・・・?」 「あ、シンくん少しお疲れだったから、疲れをとるハーブティーを作ってきたの。 ちょうどいいわ、あなたたちも飲む?」 「あ・・・はい。」 急に部屋の空気が変わって、ちょっと居心地が悪い。 勢いでここまで来たけれど、話の続きを切り…
ショーが終わってから、僕らの周りは更に騒がしくなっていた。 特にジュレの周りは、ギャラリーから黄色い声が常に飛び交っていて、 まさに「時の人」となっていた。 でも、当の本人はと言うと・・・。 そんな声に眉をひそめ、うるさい教室を抜け出しては、…
「さてと。」 キッチンに立って周りを見回した。 ―そういえば、キッチンに立つのはずいぶん久しぶりだ。 「久しぶりだなんて、料理人失格だな。」 僕は自嘲しながら、調理器具を手になじませるように確かめた。 目の前に並ぶ食材をじっと見る。 「・・・よ…
夢―― そう言えば長いこと忘れていたような気がする。 小さい頃・・・まだモーリスがい来ていた頃、僕の人生は夢が全てだった。 モーリスの店。 そこで彼と一緒に料理を作ることが、僕の夢だった。 温かくて幸せなあの空間で、幸せの料理を作ること。 その夢…
「ドゥレさ~ん。」 誰もいないはずのこの場所で、突然名前を呼ばれて煮詰まっていた思考が途切れる。 ハッとして声のする方に顔を向けると、林道を駆けて来る人影が見えた。 「ソラ・・・?」 華奢な人影は、僕の視線に気が付くと大きく手を振って、林道を…
秋は収穫の季節。 畑はどこも、収穫を待つ野菜たちが輝いていた。 ―やっぱり、ここの野菜たちはどれもピカピカに輝いているなぁ。 色艶よく成長した野菜たちに僕は目を細める。 これで料理を作ったら、さぞおいしいものができるだろう。 そんなことを考える…