大切なものは心の中に

チュジフン主演「キッチン」を中心とした作品の2次小説書庫です。

天下無敵少女

あとがきです

あんにょんです。 「天下無敵少女」がはじまったのは、2010年の9月。 途中休止はあったものの、1年2カ月かかってやっとのゴールです。 A4用紙にして422枚! こんな長編になろうとは、誰が予想しただろう・・・。 っていうか、ふと思いついた話を…

天下無敵少女~GIFT35

「ジュレ!」 ほんわかした雰囲気を打ち破るように、病室にカズンが飛び込んできた。 「どうしたの?」 「どうしたのって・・・突然東宮を飛び出して行ったって言うから・・・ 何があったのかと思って、探していたんだよ。」 私が不思議そうに覗き込むと、…

天下無敵少女~GIFT34

気持ちを切り替えて、もう一口紅茶を飲む。 甘い香りの後から仄かな苦みを感じて、なんだか急に、嫌な予感がした。 ―マリー・・・いなくなっちゃったりしないよね? 突然夢にあらわれて、私の背中を押してくれたマリー。 それは虫の知らせのような気がして…

天下無敵少女~GIFT33

真っ白な世界にいた。 とても静かで、穏かな世界。 眩しいような、眠たいような・・・瞼がうまく開かない。 ―夢だ・・・これはきっと夢の中。 とろけそうな余韻を引きずりながら、気だるい身体を起こして辺りを見回すと、 少し遠くに、ぼんやりと人影が見えた…

天下無敵少女~GIFT32

難しいとは思いますが・・・ 脳内変換をよろしくお願いします(爆) 気だるさに負けて、東宮のソファにことりと横たわる。 心地良い疲労感が身体を纏って、私はぼんやりと部屋を眺めていた。 書面の大きな本棚には、何やら小難しい本がたくさん並んでいる。 ―あ…

天下無敵少女~GIFT31

ふたりはあの後どうなったのだろう・・・? 太医院の建物を出ると、もうすぐ日の出なのか、空が白み始めていた。 どこからか小鳥のさえずりが聞こえてくる。 ドゥレの夢を、最後まで聞きたかったけれど・・・。 悔しいけれど、私たちは邪魔者だもの・・・や…

天下無敵少女~GIFT30~またまた、少し改訂しました。

ドゥレは僕の顔をじっと見て、寂しそうな笑顔を浮かべて俯いた。 「・・・話したいと思っても、話せないこともあるよ。 でも、それはしかたがないことなんだ。 ・・・彼女が・・・ヘインが僕を許さないのは、当然なんだから。」 この病室になぜ彼女がいない…

天下無敵少女~GIFT29

抱き合うドゥレとジュレを、僕とサンインは黙って見つめていた。 自分以外の男を、娘に「おとうさん」と呼ばれる気持ちとは、一体どんなものだろう。 でも、彼らの曖昧な関係は、どんな関係よりも強いことも、僕は理解していた。 誰もが優しい。彼らは優し…

天下無敵少女~GIFT28(少し改訂しました)

「ドゥレ!?」 「ドゥレパ!」 サンインとジュレの様子にドゥレは苦笑いすると、ふたりを宥めるように、 「まあ・・・サンインも、ジュレも・・・シンも聞いてよ。」と言った。 「ジュレのショーを見に行ったときに思ったんだ。 どんなことをしても切ること…

天下無敵少女~GIFT27

「サンイン・・・ヒョン・・・!」 ドゥレは思わず上体を起こそうとして、痛みに顔を歪ませた。 「お・・・おい・・・。」 僕は慌てて崩れそうなドゥレの身体を支えて、どうにか上体を起こしてやった。 ジュレは、驚いた形相で、サンインを見つめたまま、呆…

天下無敵少女~GIFT26

「何となくそうじゃないかって思っていた。 でも、お前はカズンのことが気に入らなかったんじゃないのか?・・・あの事件のことで・・・。 だからふたりが付き合うと言った時、僕はおまえが反対すると思っていた。 しかし、実際は違っていた。おまえはいつ…

天下無敵少女~GIFT25

「ドゥレ・・・。カズンを助けてくれてありがとう。」 僕はドゥレの顔を覗き込むようにして、深々と頭を下げた。 彼からジュレを託されていたのに、僕は守るどころかあえて危険な目に逢わせ、 更に我が子カズンの命までも危険に陥れてしまった。 この絶体絶…

天下無敵少女~GIFT24

心臓が大きく波打ち、一瞬喉に物を詰まらせたような苦しさを感じて、 苦しさを紛らわすように息を大きく吸って、深くそれを吐いた。 急に頭が覚醒して、ゆっくりと瞼を開けると、 それまで感じなかった痛みが身体中を襲って、僕は低くうめき声を漏らした。 …

天下無敵少女~GIFT23

気が付いたら、真っ暗な闇の中に独りで立っていた。 ここにはなにもない。 ただ、遠くで、水の流れる音が聞こえるだけだった。 ―ここは・・・? 僕は死んでしまったのかな? 銃声の音と、ジュレとカズンを押し倒したことは覚えている。 後は、たとえようの…

天下無敵少女~GIFT22

一台の黒い車が家の前に止まった。 私は、ちょうど庭のハーブに水をやっているところだった。 ―誰? ドキン。 なんだかとても嫌な予感がする。 中から黒いスーツを着た男性が、門をくぐって入ってくると、私の姿を見て駆け寄った。 「ソ・ヘインさんですね…

天下無敵少女~GIFT21

パンッ! 乾いた音と共に飛び込んできたのは、ドゥレだった。 それからは、全てがスローモーションのようだった。 私たち二人はドゥレに倒されて地面に転がり、 ドゥレはカズンに覆い被さるように崩れ落ちて動かなくなった。 そして、彼の背中から血が噴き…

天下無敵少女~GIFT20

ビリビリと張りつめた空気。 「待ち人」を誘導していたとはいえ、実際に現れると、 身体中の毛が逆立っていると思うほどの緊張感に包まれる。 喉が渇いてひりひりとする。 お互いに睨みあい、沈黙が続いた後、ヒョンジュンが威圧的な声でその緊迫した空気を…

天下無敵少女~GIFT19

「何が言いたいの?」 ヒジュの含み笑いに、後ろで黙っていたジュレが僕の前に身体を乗り出し、ヒジュをにらむ。 すると、ヒジュはにやりと笑って、 「ドゥレ氏・・・パク・ドゥレ氏はお元気かしら?」と訊いた。 「え?」 ジュレは突然ドゥレのことを持ち…

天下無敵少女~GIFT18

萩の茶会当日――― 翊衛士長のカン・ヒョンジュンらに護衛されて、ジュレが東宮に姿を現した。 「おはよう。」 「・・・おはよう。」 オフホワイトの清楚なワンピースにきれいなオレンジ色のショールを肩にかけた姿で、 小さく手を振るジュレは、 心なしか表…

天下無敵少女~GIFT17

漆黒の闇の中に浮かぶ三日月は、頼りなさげに弱い光を放つ。 「まるで、私のようね・・・。」 真っ暗な闇の中で進む道を見失って、あの人が探しに来るのをただ、ひたすら待っているしかない私。 不安でたまらないのに、動いてしまったらあの人と逢えなくな…

天下無敵少女~GIFT16

「萩の茶会にジュレを?」 萩の茶会――― 宮家主催の秋の茶会。 王族会との親睦を兼ねた小さな茶会だが、慶会楼で行われるれっきとした公式行事だ。 ここに、ジュレを呼ぶことの意味は、僕にとってとても大きい。 「では、ジュレを正式に王族会に紹介するので…

天下無敵少女~GIFT15

もう少し・・・。もう少しで確信が持てるのに・・・。 私は自分の部屋に籠り、調査完了の電話を静かに待っていた。 チリチリとした痛みが心にずっと巣食っていて、常に渇きを覚えていた。 心の渇きが水を求めても、飲んで癒えることはない。 それから解放さ…

天下無敵少女~GIFT14

―一体どういうことなのだ? 自分の執務室に戻ったソン氏は、急く気持ちを押さえながら、カン・ホジンの携帯の番号を押した。 「・・・もしもし。」 受話器の向こうから、ホジンのひときわ低い声が聞こえた。 ソン氏は、その声を聞いて、いきなりの剣幕で彼…

天下無敵少女~GIFT13

「よろしい。では・・・。」 僕の気持ちも意見も全く介されないまま、話はどんどん進んで行った。 愛する人を囮にしなくてはいけない僕の立場は、いったいどうなるんだ? すっかり蚊帳の外に追いやられて、僕はふてくされていた。 「あら、リスクが高い方が…

天下無敵少女~GIFT12

「母上・・・?」 「あ、シンくん少しお疲れだったから、疲れをとるハーブティーを作ってきたの。 ちょうどいいわ、あなたたちも飲む?」 「あ・・・はい。」 急に部屋の空気が変わって、ちょっと居心地が悪い。 勢いでここまで来たけれど、話の続きを切り…

天下無敵少女~GIFT11

ショーが終わってから、僕らの周りは更に騒がしくなっていた。 特にジュレの周りは、ギャラリーから黄色い声が常に飛び交っていて、 まさに「時の人」となっていた。 でも、当の本人はと言うと・・・。 そんな声に眉をひそめ、うるさい教室を抜け出しては、…

天下無敵少女~GIFT10

「さてと。」 キッチンに立って周りを見回した。 ―そういえば、キッチンに立つのはずいぶん久しぶりだ。 「久しぶりだなんて、料理人失格だな。」 僕は自嘲しながら、調理器具を手になじませるように確かめた。 目の前に並ぶ食材をじっと見る。 「・・・よ…

天下無敵少女~GIFT9

夢―― そう言えば長いこと忘れていたような気がする。 小さい頃・・・まだモーリスがい来ていた頃、僕の人生は夢が全てだった。 モーリスの店。 そこで彼と一緒に料理を作ることが、僕の夢だった。 温かくて幸せなあの空間で、幸せの料理を作ること。 その夢…

天下無敵少女~GIFT8

「ドゥレさ~ん。」 誰もいないはずのこの場所で、突然名前を呼ばれて煮詰まっていた思考が途切れる。 ハッとして声のする方に顔を向けると、林道を駆けて来る人影が見えた。 「ソラ・・・?」 華奢な人影は、僕の視線に気が付くと大きく手を振って、林道を…

天下無敵少女~GIFT7

秋は収穫の季節。 畑はどこも、収穫を待つ野菜たちが輝いていた。 ―やっぱり、ここの野菜たちはどれもピカピカに輝いているなぁ。 色艶よく成長した野菜たちに僕は目を細める。 これで料理を作ったら、さぞおいしいものができるだろう。 そんなことを考える…