大切なものは心の中に

チュジフン主演「キッチン」を中心とした作品の2次小説書庫です。

天下無敵少女~GIFT11

イメージ 1
 
ショーが終わってから、僕らの周りは更に騒がしくなっていた。
特にジュレの周りは、ギャラリーから黄色い声が常に飛び交っていて、
まさに「時の人」となっていた。
 
でも、当の本人はと言うと・・・。
そんな声に眉をひそめ、うるさい教室を抜け出しては、
こうしていつもの空き教室でぼんやりと空を眺めていた。
 
「・・・また、授業をさぼっただろう。」
「人聞きの悪いこと言わないで。この時間は選択授業で、私は取っていないの。
そう言うカズンだって、どうしてここにいるのよ。」
 
「僕は今来たところさ。今日は公務があったからね。
でも、授業の途中で入るのは、悪いと思って、終わるまでここで待っていようと思っていたんだよ。」
「ふ~ん、それじゃあどうぞお入りください、皇太子殿下。」
 
「もう、久しぶりに逢えたのに、嬉しいとか思わないの?キミは。」
「うれしいわよ。」
ジュレはそう言うと、ふいに僕に抱きついて、
「うれしい・・・って言ったら満足?」と、耳元で囁いた。
 
「!」
僕はムッとして彼女の手を振り払うと、彼女はいたずらっぽい顔をして笑った。
「まったく・・・全然素直じゃないんだから。」
 
♪~
ジュレの携帯が鳴って、一通のメールが届く。
彼女は何気にそれを開くと、一瞬青ざめて笑顔が消え、僕はジュレが見つめる携帯を取り上げた。
「!」
 
アン・ジュレ
 
警告を無視し続けると言うのなら、
それ相応の対価を払う覚悟をせよ。
我々ももう、容赦はしない。
 
               龍の涙
 
 
「・・・大丈夫。こんなの平気よ。」
携帯を取り返そうとするジュレの手を制しながら、
「大丈夫な訳ないだろう?こんなメールもらっておいて!」と、声を荒げる。
 
この間のショーの嫌がらせが、まだ警告の域を出ていなかったとするなら、
今度のメッセージは、彼女を直接攻撃すると宣言しているに違いなかった。
いつものように、パフォーマンス的にインターネットに流さず、
彼女の携帯に直接メッセージを送るあたりに、彼らの「本気」が見えていた。
 
―お前のことは全てわかっているから、
 いつでもお前の命を狙えるぞ・・・ということか。
 
「・・・。」
ジュレも、それはわかっているようだった。
 
「もう、黙ってはいられない。来て。」
僕は彼女の手を掴むと教室を飛び出し、校門前で待機していた宮の車に彼女を乗せ、自分も乗り込む。
「ちょ、ちょっと!」
「出してください。宮に帰ります。」
有無も言わさず、運転手にそう告げると、
「・・・は、はい。」
運転手は慌ててアクセルを踏んだ。
 
「なんで、宮に行くことになる訳?」
「それが一番安全だからさ。それに、関係ない人に迷惑もかからない。
もう僕らだけで同行する範囲じゃない。
とにかく、今は作戦会議をしなくっちゃ」
 
        ***
 
「おかえりなさいませ。」
学校へ行ったかと思ったら突然ジュレを連れて帰ってきた僕に、
ミン内官は怪訝そうに僕の様子を窺いながら、頭を下げた。
 
でも、僕はそんなことはお構いなしに、
「父上に逢いに行きます。すぐ連絡をしてください。」と指示する。
 
「殿下・・・一体どういうことです?」
戸惑うミン内官をその場に置き去りにして、僕はジュレを連れてずんずんと宮の長い廊下を歩いて、
父のいる思政殿へ向かうと、ミン内官から連絡を受けたのか、キム内官が慌てて駆け寄ってきた。
 
「殿下、いかがされたのですか?」
「父上は?夕方の公務まで、こちらにいらっしゃる筈ですが?」
「・・・陛下は、ただいまお休みになられております。」
 
思政殿の前で、足止めを食っていると、
「カズンか?・・・入りなさい。」と、扉の向こうから父の声がした。
その声に、キム内官は頭を深く下げて、扉を開けた。
 
「どうした?学校へ行くと聞いていたが・・・?」
ソファに深く座り本を読んでいた父は、そう言いながら顔を上げて、
僕の後ろにジュレの姿を見つけて顔をしかめた。
 
「父上、お話があります。」
「それは、彼女がここにいることと関係があるのか?」
 
「ええ、そうです。彼女のことでご相談があります。
そして、これは宮にも関係があることです。」
 
渋い顔でこちらを見る父に、ジュレは僕の背中をつついて、
「カズン、そんなに大事にすることじゃないよ・・・。」と、小声で言った。
 
「シンくん、お待たせ~。」
突然、ピリリとした空気を掻き消すように、
にこやかな声とともに茶器を持った母が部屋に入ってくる。
なんだか居心地悪い雰囲気に気がついて、母は僕らの姿を見ると、
「あら?カズン・・・ジュレちゃん?」と言って、目を丸くした。