大切なものは心の中に

チュジフン主演「キッチン」を中心とした作品の2次小説書庫です。

「姦臣」妄想〜月下の舞〜11

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「ああ、初めて私を見てくれた。」
 
真っすぐ私を見るその視線に、涙が出そうになった。
 
「名妓ソルジュンメが何を殊勝なことを。
お前を見る男などいくらでもいよう。」
 
彼の表情がふっと緩む。
それは昔の自信に満ちていた頃に戻ったようで、胸が高揚した。
 
自分の存在を認めてくれたことはもちろん嬉しいが、
彼が初めて自分の命と向き合い、
生きることに目を向けようとしていることが嬉しかった。
心がじわりとゆるんで、がまんできずに彼を抱きしめる。
 
「どんな男も私を見たけれど、
私を見なかった男も、私が見て欲しかった男も、唯一人だけさ。」
 
彼を見つめる。
そして、心のままに唇を合わせた。
 
 
 

            ****

 
 
彼女の言葉が、閉ざしていた心の扉を開ける。
頑な心はゆるりと力が抜けて、自然と笑うことができた。
 
死神に腕を取られ、死への道しか見えていなかった自分に、
もうひとつの道があると彼女は言った。
 
自分に雁字搦めに絡みついているものを脱ぎ去り、
ただのイム・スンジェとして向き合えば、
今まで見ることのできなかった光が、微かに見えたような気がした。
 
その光が、出口のないと思われた迷路の出口なのか、
その先にあるものが正しい答えなのかもわからないが、
 

木の間より 溢れる光は
天の陽なのか
篝火なのか
闇を彷徨う虫にはとんとわからぬ
ただ、ただ、本能の赴くままに
光を求めて飛び続けるのみ

 
その先に、たとえまた地獄が待っていたとしても、
今はただ、その一筋の光が導くところへ行くしかないではないか。
 
重ねられた唇に、その答えを求めるように吸い返す。
彼女の唇は、それに挑むように開き、
押し入れる舌を受け入れ、温かく柔らかなその舌を絡めた。
 
それは衝動なのか、必然なのか。
愛というにはあまりに衝動的で、
成り行きというにはあまりに運命的だった。
 
勢い余って押し倒される。
床に転がり、組み敷く彼女を仰向けのまま見上げた。
 
「私は卑しい白丁で、顔も身体も醜い火傷の跡で覆われ、
足もうまく動かない片端の男だぞ。」
 
「だから何だっていうんだい?
私が助けて私が介抱したんだから、そんなのはとっくに承知の上さ。
この私を誰だと思ってるんですか?、
王から下衆の男まで相手をしたソルジュンメだよ?
王も白丁も裸になれば一緒。私には関係ないね。
私は自由。抱きたい男を抱き、抱かれたい男に抱かれるんだ。
・・・それとも、そっちの方も片端になっちまったとか?」
 
彼女の啖呵に笑いがこみ上げた。
答えの代わりに彼女を抱き寄せる。
 
「お前には敵わぬ。好きなようにしろ。」
「大監。」
 
「全てを脱いだ、ただの男だ。」
「スンジェ・・・。」

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彼女を組み敷き、唇を押し付ける。
彼女のチマを解き、白い絹のような肌を露わにすると、
衣を脱ぎ捨て、その肌に顔を埋めた。
 
「あ、ああ・・・。」
 
彼女は喘ぎ声を漏らすと、ゴツゴツとしたやけど跡の残る背中に指を這わせ、
「嬉しい・・・。」と、涙を零した。
 
柔らかく滑らかな肌に掌を滑らせ、豊潤な彼女の中に自分を合わせながら、
ふと、ダンヒの吸い付くような白い肌を思い出した。


 
ー彼女は許してくれるだろうか?
 
 
「・・・生きてりゃ・・・わかりますよ。」
 
ソルジュンメが、その心を見透かすように耳元で囁く。

 
「・・・そうだな。お前と行けば、わかるのか?」
「あんたがそう望むなら。」
 
「・・・ならば、行こう。」
 
彼女を突き上げる。
 
「んっ・・・っああっっ。」
 
弓反りになった身体を抱き留める。

 
家も、父も、
力も金も、
王も臣も、
罪も恨みも、
全てを脱ぎ去り、1人の男に。
 
・・・ダンヒ。
 
全ての想いは心の奥にしまい、
今は彼女と共に。
行き着く先にある答えを見るために。