大切なものは心の中に

チュジフン主演「キッチン」を中心とした作品の2次小説書庫です。

「姦臣」妄想~月下の舞~8

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ううっ。

激痛と身体にのしかかる重みに目を覚ますと、
見覚えのある部屋で布団に転がっていた。

「?」

見れば布団にしがみつくようにして、「子狐」が眠っている。

ーのしかかるような重みはコレだったか。

彼を起こさないようにそっと身体を抜き、ヨロヨロと身体を起こすが、
どれだけ頭を殴られたのか、クラクラと眩暈を起こし頭を抱えた。


「おや、気がついたんですね。」

聞き覚えのあるすました声に顔を上げると、
ソルジュンメが部屋に入ってきたところだった。

「なぜ・・・?」
「なぜって、全く覚えていないんですか?」

「・・・・あ。」

 

怒号と次々に繰り出される拳や脚、
振り上げられた棍棒

「やめて!やめなさい!」

狂気に似た熱気の中に、突然飛び込んできたふわりと流れる衣が
あまりにそぐわなくて、それを目で追っていた。

バシッ。
「あ、っつ。」

赤い雫が道に落ちる。

一瞬、時間が止まったように空気が止まり、
その次に、凛とした声が響いた。

「小童にジョンを1枚取られたくらいでなんなの?
まったく肝っ玉の小さい奴らだね。
そのジョンがどれだけ高価なものだっていうのさ?」
「なに?」

「ところで、この吉祥亭の名妓ソルジュンメは
一体いくらすると思ってるんだい?
ジョンのひとつでこうなるなら、
この傷、どう落とし前つけようか。え?」

彼女の声に、彼女の店の男たちが彼らを取り囲む。

「う・・・くそっ。」
「へんっ。おとといきやがれ!」

悔し紛れに道に唾を吐き捨て去って行く男たちの後ろ姿に、
唾を吐き返してたあと振り返って、

「大監・・・。」

肩をおさえながら、泣きそうな顔で覗き込む彼女の顔をぼんやり思い出した。





「・・・けが・・は?」
「あ・・・ああ、こんなのは大したことありませんよ。
見境なく禍に飛び込んで半殺しにあってる人に心配されたくありませんね。」

彼女はそう言って、盥を枕元に置いて手ぬぐいを絞ると、
「大丈夫ですか?」と言って私の額を拭った。

「・・・ああ。」
「2日も寝たっきりだったから心配しましたよ。」

「・・・・。」

彼女はそのまま顔から項の汗を拭い、
何も聞かずに胸元の結びを解くと、上衣を脱がせた。
肩の傷が疼いたが、黙ってその手に従った。

よく見れば、埃にまみれボロボロだった衣は仕立てたばかりの衣に変わり、
身体も綺麗にされ、清潔な包帯で傷も手当てされている。

「本当に危なかったんですよ。
この子が私を呼びに来なかったら、私も助けることができませんでした。」
「この子・・・知り合いだったのか?」

「知り合いっていうほどじゃありませんよ。
大監のところへ行った時に顔見知りになっただけです。」

「私のところ?」
「ええ。この子を大監はご存じですか?」
「いや、名前も知らぬ。突然、私のところに来るようになって、
追い返してもまた来るから、好きにさせていただけだ。」

「でもこの子、大監のことを、「先生」って言ってましたよ?」
「先生?」

首を傾げる。
「子狐」に先生と呼ばれる覚えはなかった。